膝蓋骨(ひざの骨)の脱臼はトイ種やミニチュア種で一般的に見られる骨と関節の病気です。多くは遺伝的な素因が関係していると考えられていて、大部分が先天的な問題です。
膝蓋骨は大腿四頭筋群がひざ部分に停止する腱(けん・筋肉の終末の部分・スジ)の一部分が骨化したもので、卵形(凸状)をしています。大腿骨のひざ側の端には広い凹状の溝(解剖学的には滑車溝という名前が付いています)があり、膝蓋骨がこの溝を上下するときにひざの曲げ伸ばしができるようになっています。溝の中をなめらかに動いているときは問題がありません。
滑車溝内の膝蓋骨が不安定になり、しまいには溝から外れてしまうと膝蓋骨脱臼になります。大部分は内側に外れます(内方脱臼)。骨格の変形を伴うことも多く、正しい位置に足先を着けるために股関節が旋回していることもあります。後肢の筋肉がこわばって硬くなったり(筋の拘縮・こうしゅく)、膝関節の変成性変化が起こったり(関節炎)、しまいには歩けなくなる(肢の機能不全)という結果をもたらすことになります。そのため脱臼の重症度や骨格の異常の程度、犬の年齢、関節疾患の程度によって臨床症状はさまざまです。
内科的には炎症を鎮め痛みを和らげるくらいの治療しかできません。矯正骨切りや軟部組織(きんにくや腱など)の処置を組み合わせて脱臼を整復するいろいろな手術手技があります。後年の運動面でのQOLを高めるために、手術は良い治療法です。